クリニックコラム

公開日 2026.02.25 更新日 2026.02.25

【甲状腺機能低下症】治療の効果を最大化するコツ

特に成人女性に多く見られますが、性別や年齢に関係なく発症する可能性があります。
甲状腺ホルモンの補充により改善が期待できますが、症状が進行する前に早期発見と適切な対応が求められます。

この記事では、甲状腺機能低下症の基本的な特徴、原因、症状、そして治療方法に加え、生活上の注意点を解説します。
甲状腺機能低下症に関する疑問や不安を解消するために、ぜひ参考にしてください。

甲状腺機能低下症とは?

甲状腺機能低下症は、甲状腺ホルモンの分泌が不足することで、全身の代謝が低下する症候群です。
疲れやすさや寒がり、便秘、体重増加、抜け毛、気分の落ち込みなど、日常的な不調として現れることが多く、加齢や体質の問題と見過ごされがちです。

ここでは、甲状腺機能低下症の定義や特徴、甲状腺ホルモンの役割について解説します。

甲状腺機能低下症の定義と特徴

甲状腺機能低下症とは、体内で甲状腺ホルモンが十分に作られなくなる状態を指します。
代謝が低下することで、顔や手足のむくみ、声のかすれ、寒がり、体重増加、脱毛、便秘、疲れやすさなどの症状が徐々に現れるのが特徴です。

これらの症状は加齢や生活習慣によるものと誤解されやすいですが、放置すると心臓や消化器系、精神面にも影響を及ぼす可能性があります。
そのため、早期に気づき、適切な治療を受けることが重要です。

甲状腺ホルモンの役割と重要性

甲状腺ホルモンは、体のエネルギー代謝を調整し、体温や心拍、脳の働き、消化管の動きなどの各臓器の働きを正常に保つ役割を担っています。
また、乳幼児や小児の成長や、精神的な安定にも深く関わる重要なホルモンです。

このホルモンが不足すると、全身の臓器の働きが緩慢になり、体調不良を引き起こします。
甲状腺機能低下症の治療は、このホルモンバランスを整えることが中心となります。

甲状腺機能低下症の主な原因

甲状腺機能低下症は、原因によって経過が異なります。
原因を正しく理解することは、適切な治療と症状の安定につながります。

ここでは、最も多い自己免疫疾患である橋本病をはじめ、薬剤やヨウ素摂取過剰をはじめとする生活環境との関係について解説します。

自己免疫異常と橋本病の関連

甲状腺機能低下症の最も多い原因は、臓器特異的自己免疫疾患である橋本病です。
免疫システムが誤って甲状腺を攻撃し、慢性的な炎症を引き起こすために甲状腺ホルモンの分泌能力が低下することで発症します。

橋本病は特に中高年の女性に多く、日本では成人女性の3~10%を占めると言われています。
遺伝的要因やホルモンバランス、ストレスなどが発症に関与すると考えられています。

薬物療法やヨウ素不足、過剰摂取が引き起こす問題

一部の薬剤(抗甲状腺薬、リチウム製剤など)は、甲状腺ホルモンの分泌に影響を与えることがあります。
また、ヨウ素(ヨードとも言う)は甲状腺ホルモンの材料となる栄養素ですが、極端な不足だけでなく過剰摂取でも甲状腺機能低下症の原因となる場合があります。

日本では海藻類の摂取量が多いため、自己判断で根昆布療法(根昆布をつけこんだ水を飲む民間療法)やイソジンうがい薬の過剰な使用は避け、医師の指示に従うことが重要です。

遺伝的要因と生活習慣の影響

甲状腺機能低下症のうち、特に橋本病などの自己免疫疾患では、家族歴がある場合に発症リスクが高まることが知られており、遺伝的要因が関与すると考えられています。
一方で、家族に橋本病をはじめ自己免疫性甲状腺疾患があっても、全員が発症するわけではありません。一卵性双生児(遺伝的に全く同じヒト)でも、必ずしも双方が発症するわけではありません。

ただし、過度なストレスや睡眠不足、喫煙、極端なダイエットなどは、全身の健康状態や免疫バランスに影響を与えるため、甲状腺疾患の家族歴を有している場合には注意が必要と考えられます。

甲状腺機能低下症の症状

甲状腺機能低下症の症状は全身に及び、個人差も大きく、進行が緩やかなため、気づきにくいのが特徴です。
また、身体的な不調だけでなく、精神面に影響が出ることもあります。

ここでは、代表的な身体的・精神的な症状について詳しく解説します。

身体的症状:倦怠感や冷え・寒がり、浮腫みや体重増加、便秘

代表的な症状として、強い倦怠感や冷え・寒がりがあります。
甲状腺ホルモンが不足すると代謝が低下し、エネルギーを作り出す力が弱まるため、十分に休んでも疲れが取れにくくなります。
朝起きるのがつらい、日中に強い眠気を感じる、周囲の人より寒さに弱いといった症状が見られることもあります。

さらに、むくみや体重増加、便秘などもよく見られる症状です。
これらは水分や老廃物の排出が滞ることや、エネルギー消費や消化管運動の低下によって起こり、放置すると日常生活の質を悪化させます。

精神的症状:気分の落ち込みとその対策

甲状腺ホルモンの不足は脳や神経系の働きにも影響し、気分の落ち込みや傾眠傾向、意欲の低下が現れることがあります。
以前は楽しめていたことに興味が持てなくなるなど、うつ状態のような症状として自覚されるケースも少なくありません。

これらの症状はうつ病と似ているため、誤診されることもありますが、甲状腺機能低下症が関係していることもあり、血液検査での確認が必要です。
気分の大きな変化や落ち込みが続く場合は、早めに医療機関を受診しましょう。

甲状腺機能低下症の検査・診断

甲状腺機能低下症は、症状だけで判断することが難しく、検査による診断が欠かせません。
正確な診断を受けることで、適切な治療につなげることができます。

ここでは、血液検査や超音波検査によって何が分かるのかを解説します。

血液検査でわかること

血液検査では、甲状腺ホルモン(FT4やFT3など)や甲状腺刺激ホルモン(TSH)の値を測定します。
甲状腺ホルモンが低く、TSHが高い場合、甲状腺機能低下症と診断されます。
これは体が不足した甲状腺ホルモンを補おうとして、下垂体(頭の中心にあるホルモンの司令塔)からTSHを多く分泌している状態です。

また、血液検査では橋本病に関連する自己抗体の有無も確認でき、原因の特定や治療方針の判断に役立ちます。
これらの検査は専用の検査機器を使用すれば1時間程度で結果を確認できます。

超音波検査の役割

超音波検査では、甲状腺の大きさや形、内部の状態を画像で確認できます。
甲状腺の腫れや萎縮、内部構造の変化、慢性炎症の有無を把握できるため、橋本病の診断補助として有用です。血液検査とあわせて診断精度を高め、腫瘍性病変の有無を確認する役割があります。

検査は痛みがなく、放射線被ばくの心配もないため、安心して受けられます。

甲状腺機能低下症の治療

甲状腺機能低下症の治療は、不足している甲状腺ホルモンを補い、病状を安定させながら日常生活の質を維持することを目的としています。
原因や重症度、年齢、ライフステージによって治療の進め方は異なりますが、多くの場合、適切な管理を行うことで健康な人とほぼ変わらない生活が可能です。

ここでは、甲状腺機能低下症の治療方法を中心に、ホルモン補充療法の考え方や基本、治療効果が現れるまでの期間、治療のゴール、さらに軽症例や妊婦・高齢者における治療の注意点、食事面でのポイントについて解説します。

甲状腺ホルモン(レボチロキシン)補充療法とは

甲状腺機能低下症の治療では、不足している甲状腺ホルモンを外から補う「ホルモン補充療法」が行われます。
主に使用されるのが、レボチロキシンという合成甲状腺ホルモン製剤です。
体内で本来分泌されるホルモンと同様の働きをするため、適切に使用することで代謝や体調が改善できます。

この治療は、甲状腺そのものを回復させるものではなく、ホルモン不足の状態を補いながら体のバランスを保つことを目的としています。
そのため、検査結果に応じて継続的に内服量を調節していくことが前提となります。

甲状腺ホルモン補充療法の基本と注意点

治療の基本は、甲状腺ホルモン剤の内服です。
不足しているホルモンを補うことで、代謝や体調を正常な状態に近づけます。
薬は毎日服用し、定期的な血液検査でホルモン値を確認しながら、医師が用量を調整します。

効果が安定するまでに約5~6週間程度かかるため、自覚症状が改善しないからといって自己判断で中断や量の変更をしないことが重要です。
他の薬を服用している場合は、必ず医師に報告しましょう。

薬の正しい服用方法と注意点

甲状腺ホルモン剤は、服用方法によって効果の安定性が左右されます。
空腹時に服用することで吸収が良くなることが分かっており、飲み忘れや不定期の服用はホルモン値の低下につながります。

また、甲状腺ホルモン剤の吸収は同時に服用する薬やサプリメントの影響を受けることがあります。
特にカルシウムや鉄を含む薬やサプリメントとの同時摂取は、効果を弱める可能性があるため注意が必要です。3~4時間は服用間隔をあけるようにしましょう。

服用に関して不安や疑問がある場合は、自己判断せず医師や薬剤師に相談しましょう。

治療効果が現れるまでの期間

甲状腺機能低下症の治療を開始しても、すぐにすべての症状が改善するわけではありません。
ホルモン値が安定し、体調の変化を実感できるまでには、数週間から数か月かかることがあります。

症状の改善スピードには個人差があり、年齢や重症度、合併症の有無なども関係します。
治療初期は焦らず、定期的な検査を受けながら少しずつ調整していくことが、スムーズな回復につながります。

甲状腺機能低下症は治るのか?治療のゴール

甲状腺機能低下症は、多くの場合「完治」する病気ではありません。
特に橋本病が原因の場合、甲状腺の機能が元に戻ることは少ないです。

しかし、適切な治療を継続することで、症状をコントロールし、健康な人とほぼ変わらない生活を送ることが可能です。
治療のゴールは、血液検査の数値を安定させ、生活の質(QOL)を維持することにあります。

潜在性甲状腺機能低下症の治療判断

血液検査でTSHが高いものの、甲状腺ホルモン値が正常範囲内にある状態を「潜在性甲状腺機能低下症」と呼びます。
この段階では自覚症状がほとんどない場合もあり、必ずしもすぐに治療が必要とは限りません。

治療の必要性は、TSHの数値、症状の有無、年齢、心血管リスクなどを総合的に判断して決定されます。
経過観察のみとするケースもあるため、医師と相談しながら対応することが重要です。

妊婦・高齢者の治療のポイント

妊婦や高齢者では、甲状腺機能低下症の治療において特別な配慮が必要です。
妊娠中は甲状腺ホルモンの需要が増えるため、治療中の方でも用量調整が必要になることがあります。

一方、高齢者では過剰なホルモン補充が心臓への負担となる可能性があるため、少量から慎重に増量することが一般的です。
いずれの場合も、自己判断せず、定期的な検査と医師の管理のもとで治療を進めることが大切です。

食事でのヨウ素摂取のポイント

甲状腺機能低下症の治療中に、特別な食事制限が必要なケースは多くありませんが、ヨウ素の摂取量には一定の配慮が必要です。
海藻類を極端に多く摂ることは避け、バランスの良い食事を心がけましょう。

また、鉄分やタンパク質、ビタミン類は体調維持に必要な栄養素です。
サプリメントの服用は自己判断せず、医師に相談することが大切です。

甲状腺機能低下症と生活習慣

甲状腺機能低下症の症状の安定には、日々の生活習慣も関わります。
生活を整えることで、症状の悪化を防ぐことが期待できます。

ここでは、日常生活で意識したいポイントや、ストレス管理の重要性について解説します。

日常生活でできる予防策

規則正しい生活、十分な睡眠、バランスの良い食事は、さまざまなホルモンバランスの安定に役立ちます。
特に睡眠不足は自律神経の乱れを招き、さまざまなホルモンの分泌に影響を与えるため注意が必要です。
無理なダイエットや過労は避け、体に負担をかけない生活を心がけましょう。

日々の体調変化に目を向け、疲れやすさや冷え、むくみ、脱毛、便秘などを感じた場合は、早めに受診することが病状の悪化を防ぐことにつながります。

ストレス管理とメンタルヘルスの重要性

ストレスはさまざまなホルモンの分泌に影響を与えるため、適度な運動やリラックスできる時間を意識的に取り入れることが大切です。
強いストレスが続くとホルモンバランスが乱れ、症状の悪化や回復の遅れにつながることがあります。

深呼吸や軽いストレッチ、趣味の時間を確保することも心身の健康に有効です。
心のケアを行うことは、病状を安定させるうえでも重要なポイントです。

まとめ:甲状腺機能低下症の治療効果を高めるためにできること

甲状腺機能低下症の治療では、医師の指示に基づいて甲状腺ホルモン補充療法を正しく継続することが最も重要です。
バランスの良い食事や適度な運動、十分な睡眠などの生活習慣は、全身の健康維持や体調管理に役立つ可能性がありますが、甲状腺機能低下症を直接的に予防・改善する効果が明確に証明されているわけではありません。

また、ストレス管理や定期的な健康チェックは治療を安定して続けるために有用ですが、ストレス対策自体が自身の甲状腺ホルモン分泌に直接作用することはない点も理解しておく必要があります。
薬物療法を中心に、医師の管理のもとで継続的に治療を受けることがQOLの維持につながります。

この記事の監修者

平岩 哲也

平岩 哲也

ひらいわクリニック

院長

プロフィール

甲状腺はとても小さな臓器でありながら、全身の臓器に影響をおよぼすホルモンを合成しています。そして、自己免疫疾患によりそのホルモンの異常をきたし、良性・悪性の腫瘤性病変も発生します。また、治療も薬物療法、放射線治療、手術と多彩で、内科医がその選択に大きく関わります。そうしたところに興味を覚え、専門とし研鑽を積んできました。今後は弊院スタッフとともに皆さまの健康に資するべく、高いレベルの内分泌代謝疾患診療を継続的に提供し、医療現場でのホスピタリティを培って社会に貢献してまいります。

経歴

平成8年 大阪医科大学(※1)卒業

平成8年~平成11年 名古屋大学附属病院、名古屋記念病院勤務

平成11年~ 大阪医科大学附属病院(※2)第一内科学教室入局

平成12年~平成14年 神甲会隈病院勤務

平成16年~平成24年 大阪医科大学附属病院(※2)第一内科 任期付助手→助教

平成24年5月 ひらいわクリニックを大阪府茨木市大手町に新規開院

令和6年8月 茨木市西中条町に移転拡張リニューアル

現在に至る

(※1)現 大阪医科薬科大学 (※2)現 大阪医科薬科大学病院

所属学会・認定医

日本内分泌学会認定内分泌代謝科専門医・評議員

日本甲状腺学会認定専門医・評議員

医学博士

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