日本内分泌学会認定内分泌代謝科専門医・評議員
日本甲状腺学会認定専門医・評議員
医学博士
クリニックコラム

甲状腺腫瘍は良性・悪性により診療方針が大きく変わるため、適切な診断が欠かせません。
本記事では、甲状腺の役割、腫瘍の基礎知識から診断方法、手術の種類、術後に注意すべき合併症、さらに知っておきたい疑問点まで、安心して治療に臨むための重要なポイントを体系的に解説します。
術後の生活を安心して過ごすためのヒントがきっと見つかるはずですので、ぜひ参考にしてください。
甲状腺腫瘍は、首の前にある甲状腺に生じるしこりや腫れの総称です。
良性から悪性まで性質はさまざまで、症状が乏しいことも多く、適切な対応には正確な診断が重要です。
まずは甲状腺の役割や腫瘍の種類を理解し、続く見出しで解説する内容の基礎を押さえておきましょう。
甲状腺は首の前側、喉仏の少し下に位置し、蝶が羽を広げたような形をした小さな臓器です。
ここで作られる甲状腺ホルモンは、体全体の代謝を調整する重要な役割を担っています。
代謝とは体が食べ物からエネルギーを作り出し、それを利用して体を構成する細胞を新たに作り出したり、各組織や臓器を活性化したり、その際に不要となったものを分解して排出する一連のプロセスを指します。
甲状腺ホルモンが不足するとこうしたプロセスが障害され、さまざまな体調不良をきたします。
また、乳幼児や成長期の子どもでは、知能の発達や身体の発育にも深く関わっています。
甲状腺の働きが乱れると発育に支障をきたしたり、さまざまな症状が現れるため、健康を維持するうえで大切な存在と言えるでしょう。
甲状腺腫瘍には良性と悪性があり、診療方針は性質によって大きく異なります。
良性は広がりにくく経過観察で済むことも多いですが、悪性は周囲への浸潤や転移の可能性があるため早期診断が欠かせません。
画像検査や細胞診検査で性質を判断し、必要に応じて手術や経過観察が行われます。
両者の違いを理解することで今後の見通しが立ちやすくなります。
甲状腺腫瘍の診断では、良性か悪性かを正確に見極めることが重要です。
触診だけでは判断が難しいため、超音波検査や細胞診検査、血液検査を組み合わせて腫瘍の特徴を詳しく調べます。
甲状腺腫瘍の診断は、主に首の超音波検査、血液検査、細い針を使った細胞診検査の三つが中心です。
まず、超音波検査では腫瘍の数、大きさや形・内部の様子を詳しく見ます。
血液検査では、甲状腺ホルモンの値やサイログロブリン(甲状腺のみが作っているタンパク)と呼ばれる数値を確認し、体の中でどのような変化が起きているかを把握します。
さらに、細い針を用いて腫瘍の細胞を採取する検査(細胞診検査)は、腫瘍が良性か悪性かを見極めるために欠かせません。
これらの検査を組み合わせることで、より正確な診断が可能になります。
細胞診検査は、腫瘍の性質を調べるため細胞を採取する重要な検査です。
超音波で腫瘍の位置を確認しながら細い針を刺すため安全性が高く、痛みも採血検査と変わりないことが特徴です。
検査後は軽い腫れや痛み、内出血が生じる場合もありますが、多くは自然に回復します。
強い痛みや腫れが続く場合は早めに医師へ相談し、当日は激しい運動やアルコール摂取、大きな声を長時間出す(たとえばカラオケで歌う)ことを避けて過ごすことが大切です。
血液検査では、甲状腺ホルモンの状態やサイログロブリンを確認し、甲状腺機能異常や悪性の可能性を把握します。
TSH、FT3、FT4の数値からホルモンバランスがわかり、サイログロブリンの測定は術後の再発評価にも役立ちます。
体への負担が少ない検査であり、治療方針を決めるうえでも欠かせない重要な指標です。
甲状腺腫瘍の手術は、腫瘍の性質や大きさ、進行度に応じて方法が選ばれます。
良性と悪性では治療内容が大きく異なり、術後の経過や合併症のリスクにも違いがあります。
まずは手術の種類と特徴を理解し、続く項目で詳しく紹介する注意点を把握することが大切です。
良性の甲状腺腫瘍に対する手術は、腫瘍が大きくなって見た目に影響したり、経過観察で変化が見られた場合に行われます。
一般的には片側の甲状腺のみを切除する片葉切除が選択され、甲状腺の機能をできるだけ残し、合併症を起こさないことが利点です。
首の前を襟状に切開して腫瘍のある側の甲状腺半分を取り除き、傷跡が目立ちにくい工夫も施されます。
手術時間は2時間程度で、術後はホルモン補充が不要な場合も多く、早期の回復が期待できる治療法です。
悪性腫瘍では、がん細胞を確実に取り除くため甲状腺の全摘や片葉切除が行われます。
首のリンパ節も併せて切除し、がんの再発リスクを減らすことが目的です。
手術は全身麻酔で行われ、傷跡が目立ちにくいよう配慮されますが、声のかすれや低カルシウム血症などの合併症がまれに起こります。
腫瘍の広がりに応じて適切な方法が選択されるため、事前の説明を十分に理解して臨むことが大切です。
甲状腺腫瘍の手術では、首の前側を襟状に切開することが一般的です。
切開は首のしわに沿うように行われるため、傷跡が目立ちにくいという特徴があります。
最近では縫合の工夫により傷をきれいに仕上げる技術も発達しています。術後は紫外線を避ける、保湿を行う、医師の指示に沿ってテープを使ってケロイドを予防するなどのケアが重要です。
術後3~4か月間にわたって適切なケアを続けることが、きれいな傷の治りにつながります。
甲状腺腫瘍の手術後は、さまざまな合併症が起こる可能性があり、適切な対応が重要です。
声のかすれ、出血、呼吸がしづらい、唇や手がしびれるなどは特に注意すべき症状です。
異変を感じたときは自己判断せず、早めに医師へ相談しましょう。
反回神経(声を発生する場所である声帯をコントロールする神経)麻痺による声の変化は、甲状腺腫瘍の手術後に起こる代表的な合併症の一つです。
これは、反回神経が気管と甲状腺のあいだを走っているため、手術時に傷つくことで発生します。
声が出しづらい、息が漏れるような話し方になる、長く話すと疲れるなどが主な症状です。
こうした合併症を防ぐには、経験豊富な甲状腺外科医に手術を依頼することが重要です。
術後出血は、手術直後から数日以内に起こることが多く、首元の腫れや強い圧迫感、急な呼吸のしづらさとして現れます。
出血が進むと気道が圧迫されて命に関わることもあるため、早期発見と迅速な対応が必要です。
予防策として手術直後は安静を保つことが大切です。
特に血が止まりにくくなるお薬を服用中の方は、必ず医師に申告し適切に対処することが重要です。
また、咳や強い力みを避け、傷口を清潔に保つこともポイントになります。
異変を感じた場合はすぐに医療スタッフへ伝えましょう。
手術後に呼吸が苦しくなる原因には、術後出血による腫れや気道の圧迫、声帯を動かす反回神経の損傷により生じることがあります。
息がしづらい、ゼーゼーする、声が急に出しにくいといった症状があれば、すぐにナースコールで医療スタッフに知らせましょう。
早期対応が非常に重要であり、手術後は定期的に看護師が呼吸状態を確認するために巡回していますし、患者の血中酸素濃度は持続的にモニターされています。
低カルシウム血症は、手術中に副甲状腺が甲状腺と一緒に切除されるために起こります。
手足のしびれ、口の周りのピリピリ感、けいれんなどが代表的な症状で、不安を感じる方も多いでしょう。
血液検査でカルシウム値を確認し、必要に応じてカルシウム剤やビタミンDを補充します。
症状が強い場合は点滴で血中カルシウムを調整します。
甲状腺機能低下症は、手術後の合併症として見逃せない重要な症状です。
だるさ、体重増加、寒がり、便秘、むくみ、気分の落ち込みなど多様な症状が現れます。
以前より元気が出ない、体が重いと感じる場合は甲状腺ホルモンの不足が原因かもしれません。
血液検査で確認し、必要に応じて甲状腺ホルモン補充療法で改善を図る必要があるため、自己判断せず医師へ相談することが大切です。
甲状腺腫瘍の手術前後には、多くの方が生活面や再発、ホルモン補充などについて不安を抱きます。
よくある疑問を整理して知識を深めることで、術後の不安が軽減し、適切なセルフケアや治療の理解が進みます。
手術後は無理をせず、体をしっかり休めることも大切です。
首の傷は清潔に保ち、強くこすらないように注意します。
声のかすれや飲み込みにくさがある場合は、無理に話したり食べたりせず、早めに医師へ相談しましょう。
また、血液検査で血中カルシウムや甲状腺ホルモンの状態を確認し、疲れやすさや手足のしびれなどの変化があれば報告することが順調な回復につながります。
甲状腺腫瘍の手術後も、悪性腫瘍では再発の可能性が残ります。
腫瘍が周囲に広がっていた場合やリンパ節にがんが転移していた場合はリスクが高く、定期的な血液検査やエコー検査が欠かせません。
首のしこり、声のかすれ、飲み込みづらさなどの症状が現れたときは、早めに医師へ相談しましょう。
また、甲状腺ホルモン補充を行っている場合は定期的に服薬し、血液検査で甲状腺機能を確認して適切な服用量を維持することが再発の予防につながります。
甲状腺の一部または全体を取り除いた場合、体内で十分な甲状腺ホルモンが作れなくなり補充が必要になることがあります。
代謝に関わる甲状腺ホルモンが不足すると、だるさ、体重増加、寒がり、便秘、気分の落ち込みなどの甲状腺機能低下症状が現れます。
血液検査で不足が確認されると、医師は飲み薬による補充治療を提案します。
薬は毎日飲むことが大切で、自己判断で中断せずに定期的に通院・検査を受け、医師の指示を守ることが非常に重要です。
甲状腺腫瘍の手術後は、声の変化や出血、呼吸のしづらさ、唇や手がしびれるなど、早期に気づきたい症状がいくつもあります。
術後の経過を正しく理解し、上記の症状を自覚したら早めに医師へ相談することが、順調な回復につながります。
適切な知識とセルフケアを身につけることで、不安を軽減しながら自分のペースで術後の生活を整えていきましょう。
この記事の監修者
プロフィール
甲状腺はとても小さな臓器でありながら、全身の臓器に影響をおよぼすホルモンを合成しています。そして、自己免疫疾患によりそのホルモンの異常をきたし、良性・悪性の腫瘤性病変も発生します。また、治療も薬物療法、放射線治療、手術と多彩で、内科医がその選択に大きく関わります。そうしたところに興味を覚え、専門とし研鑽を積んできました。今後は弊院スタッフとともに皆さまの健康に資するべく、高いレベルの内分泌代謝疾患診療を継続的に提供し、医療現場でのホスピタリティを培って社会に貢献してまいります。
経歴
平成8年 大阪医科大学(※1)卒業
平成8年~平成11年 名古屋大学附属病院、名古屋記念病院勤務
平成11年~ 大阪医科大学附属病院(※2)第一内科学教室入局
平成12年~平成14年 神甲会隈病院勤務
平成16年~平成24年 大阪医科大学附属病院(※2)第一内科 任期付助手→助教
平成24年5月 ひらいわクリニックを大阪府茨木市大手町に新規開院
令和6年8月 茨木市西中条町に移転拡張リニューアル
現在に至る
(※1)現 大阪医科薬科大学 (※2)現 大阪医科薬科大学病院
所属学会・認定医
日本内分泌学会認定内分泌代謝科専門医・評議員
日本甲状腺学会認定専門医・評議員
医学博士
この記事の監修者
医師
プロフィール
患者さん一人ひとりの不安に寄り添い、わかりやすい説明と丁寧な診療を心がけています。 甲状腺の病気は、長く付き合っていく必要がある場合も少なくありません。 安心してご相談いただける、身近な専門クリニックを目指し、日々診療に取り組んでまいります。
経歴
平成27年 関西医科大学 卒業
平成27年~平成29年 大阪医科大学附属病院にて臨床研修
平成29年~ 大阪医科大学(※1)第一内科学教室入局
平成30年~令和2年 市立ひらかた病院 勤務
令和2年~令和6年 大阪医科大学附属病院(※2)勤務
令和6年4月 ひらいわクリニック 勤務
現在に至る
(※1)現 大阪医科薬科大学 (※2)現 大阪医科薬科大学病院
所属学会・認定医
内科認定医
臨床研修指導医
日本糖尿病学会専門医
日本内分泌学会認定 内分泌代謝科専門医
認定産業医
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