日本内分泌学会認定内分泌代謝科専門医・評議員
日本甲状腺学会認定専門医・評議員
医学博士
クリニックコラム

無痛性甲状腺炎は動悸・息切れや体重減少といった症状で気づくことが多い病気です。
単なる疲れやストレスの影響と見分けにくいため、受診が遅れるケースも少なくありません。
本記事では、無痛性甲状腺炎とバセドウ病の違いや原因、病態、治療法や日常生活で気をつけたいポイントを解説します。
甲状腺の病気について不安を感じている方や、無痛性甲状腺炎の特徴や治療法を知りたい方はぜひ参考にしてください。
無痛性甲状腺炎は気づきにくい点が特徴のひとつです。
しかし、放置すると日常生活に影響し、心臓に負担がかかる場合もあります。
まずは、無痛性甲状腺炎の主な症状を押さえておきましょう。
無痛性甲状腺炎では、甲状腺ホルモンが一時的に血液中へ漏れ出し、代謝が上昇した状態になります。
その結果、脈が早くなり動悸を感じたり、階段を上るときや家事の途中で息切れしたりすることもあります。
食事量が変わらないのに体重が落ちる、汗をかきやすい、手の細かく震える、落ち着かず眠りが浅いといった症状も起こり得ます。
単なる疲労やストレスの影響と見分けにくい一方、安静時でも代謝が上昇した状態が続くと体力を消耗しやすいため、日常と違う症状が続く場合は医療機関の受診が必要です。
無痛性甲状腺炎は、甲状腺細胞が作っている濾胞(ろほう)という構造が一時的に壊れて、貯蔵されていた甲状腺ホルモンが血液に漏れ出すことで起こる病態です。
背景に橋本病がある人もいます。
以下では、無痛性甲状腺炎の原因と橋本病との関係を確認していきましょう。
無痛性甲状腺炎は、橋本病が背景にある人で起こりやすいといわれます。
橋本病は、免疫が誤って甲状腺を攻撃し、慢性的な炎症が起こる病気で、症状が目立たず気づかないままのこともあります。
健康診断や血液検査をきっかけに診断されるケースもあるため、過去に甲状腺の異常を指摘された経験があれば受診時に伝えることが大切です。
出産後しばらくして、動悸・息切れがする、汗をよくかく、体重が落ちるといった症状が現れた場合、出産後甲状腺炎の可能性があります。
これは無痛性甲状腺炎の一種で、妊娠中に変化していた免疫の働きが産後に戻る過程で甲状腺細胞が壊れて、甲状腺ホルモンが血液中に漏れ出すことにより起こります。
単なる育児の疲れと区別しづらいこともあり注意が必要です。
多くは自然に落ち着くものの、回復の途中で甲状腺の働きが低下し、だるさやむくみ、気分の落ち込みが出ることもあります。
免疫とは本来、体を守る仕組みですが、何らかのきっかけで誤って自分自身の組織を攻撃してしまうことがあります(自己免疫異常という)。
そうした機序で甲状腺細胞が作っている濾胞(ろほう)という構造が壊れると、甲状腺ホルモンが一気に血液中に漏れ出し、動悸・息切れや体重減少などの症状が現れる可能性があります。
ウイルス感染やストレス、出産などが免疫のバランスを乱し、そのために無痛性甲状腺炎を起こすとも考えられています。
無痛性甲状腺炎やバセドウ病は動悸・息切れや体重減少など似たような症状が出ますが、治療法は全く異なります。
無痛性甲状腺炎とバセドウ病では、血中の甲状腺ホルモンが増える理由が異なります。
無痛性甲状腺炎は甲状腺細胞が作っている濾胞(ろほう)という構造が一時的に傷つき、貯めていたホルモンが血液へ漏れ出して血中の甲状腺ホルモンが増える仕組みです。
甲状腺ホルモンを過剰に作りすぎているわけではないため、対症療法(症状を和らげる対応)や経過観察が中心になります。
一方、バセドウ病は自己免疫の異常で甲状腺細胞が刺激され、ホルモンを過剰に作り・分泌(血液中にホルモンを入れること)する病気です。
診断を誤ると回復が遅れたり、無用な薬の内服による副作用をきたすこともあります。
無痛性甲状腺炎では、症状が強いときには動悸を抑える薬などの対処療法を行いますが、基本的には自然軽快します。
一方、バセドウ病はホルモンを過剰に作り・分泌するため、薬物療法などが必要です。
無痛性甲状腺炎に抗甲状腺薬(バセドウ病で使われる代表的な薬)を使うと、ホルモン不足に傾くこともあります。
関連記事:【バセドウ病1】基礎知識から検査・診断まで徹底解説!
無痛性甲状腺炎が疑われるときは、症状だけで決めつけず、病院で検査を受けることが大切です。
動悸・息切れや体重減少などは他の甲状腺の病気でも起こるため、自己判断だと治療の方向を誤りかねません。
血液検査や抗体検査、超音波検査などを組み合わせて原因を見極め、必要なら経過観察や対症療法へつなげます。
無痛性甲状腺炎の検査内容と診断確定までの流れを順に確認しましょう。
無痛性甲状腺炎では甲状腺ホルモン(FT4やFT3)が高く出て、反対に甲状腺刺激ホルモン(TSH)は低くなります。
FT4やFT3が高い時期は動悸・息切れや手の震え、体重減少が現れることもあり、FT4やFT3が正常化すると良くなります。
当然、一度の採血だけでは判断しきれないこともあるので、症状の経過や他の検査と合わせて医療機関に定期的に通院することが大切です。
TSHレセプター抗体(TRAb)は、甲状腺を刺激してホルモンを作らせる方向に働く抗体で、バセドウ病の診断で重要です。
一方、無痛性甲状腺炎ではTRAbが陰性となります。従って、両者を鑑別するときにTRAbを測定し、結果を確認することが最も大切なのです。
超音波検査では、甲状腺の大きさや内部の状態に加え、血流の程度も確認できます。
無痛性甲状腺炎は濾胞構造が壊れてホルモンが漏れ出すため、甲状腺内部の血流増加は認められません。
一方、バセドウ病では甲状腺が活発にホルモンを作るため甲状腺内部の血流が増え、両者の鑑別に役立ちます。
超音波検査は比較的短時間で痛みも少なく、繰り返し行うこともできます。
血液検査と超音波検査を組み合わせることで、無痛性甲状腺炎とバセドウ病を鑑別する精度が上がります。
無痛性甲状腺炎はホルモンを「作りすぎる」のではなく「漏れ出す」ことで起こります。
多くは自然に落ち着きますが、回復の途中で一時的に甲状腺ホルモンが不足する時期が出る場合もあります。
経過と治療について確認していきましょう。
無痛性甲状腺炎では、ホルモンが上昇したあとに、一時的にホルモンが不足する「甲状腺機能低下症」に移ることがあります。
漏れ出していたホルモンが代謝されたあと、回復期の甲状腺はホルモンを十分に作れないためです。
だるさが強い、眠気が抜けない、むくみや体重増加が気になる、寒がりになる、気分が沈みやすいなどの症状が出る場合があります。
多くは数週間〜数か月で回復しますが、日常生活に支障が出るほどつらいときは、甲状腺ホルモン剤を使うケースもあります。
個人差はありますが、無痛性甲状腺炎は3か月~半年程度で症状が落ち着き、最終的に甲状腺機能正常へ戻る人が多いとされています。
流れとしては、まずホルモンが多い時期が1〜3か月ほど続き、その後に一時的な機能低下の期間をはさむことがあります。
まれに再発することもあり、産後の女性や橋本病が背景にある人では注意が必要です。
防ぐ方法はないため、症状が再び出たときに見逃さないことが現実的な対策になります。
無痛性甲状腺炎では、バセドウ病で使う抗甲状腺薬を用いません。
甲状腺がホルモンを過剰に作っているのではなく、甲状腺細胞が傷ついて濾胞構造の中のホルモンが血液へ漏れ出す状態だからです。従って、ホルモンの合成を抑える抗甲状腺薬は効果なく、副作用のリスクのみを負うことになります。
症状が強いときは、動悸や手の震え、不安感を和らげる目的でβ遮断薬や安定剤などが処方されることがあります。
無理をすると症状が悪化することもあるので、睡眠時間を十分に確保し、激しい運動や過度のカフェイン摂取を控えるなどの工夫も役立つでしょう。
血液中の甲状腺ホルモンが高い時期は脈が速くなりやすく、少しの労作でも動悸や息切れが出ることがあります。
この時期に激しい運動を行うと、体力が低下し回復が遅れる場合もあるため、十分に休息をとりましょう。
医師から安静度の指示があるなら従い、家事や運動も「息が上がらない範囲」に抑えましょう。
動悸や息切れが強い時期は無理せず、運動量や日常生活の調整は医師の指示を仰ぎましょう。
無痛性甲状腺炎はホルモン値が短期間で変わることがあり、体感だけでは今の状態を判断しにくい病気です。
良くなったと思っても、回復期に一時的な機能低下へ移る場合があり、だるさやむくみが出ることもあります。
定期的に血液検査を受けると、治療の要否や生活の注意点をその都度把握しやすくなります。
無痛性甲状腺炎では、甲状腺ホルモンを作りすぎる病気ではなく、傷害をうけた甲状腺からホルモンが一時的に漏れ出すことで血液中のホルモン値が上昇します。
そのため、バセドウ病とは発症の仕組みも治療方針も異なります。
動悸・息切れや体重減少が続く場合、血液検査やTSHレセプター抗体測定、超音波検査を組み合わせた鑑別が重要になります。
多くは自然に回復へ向かいますが、回復期に一時的な甲状腺機能低下へ移る場合もあるので経過観察が必要です。
この記事の監修者
プロフィール
甲状腺はとても小さな臓器でありながら、全身の臓器に影響をおよぼすホルモンを合成しています。そして、自己免疫疾患によりそのホルモンの異常をきたし、良性・悪性の腫瘤性病変も発生します。また、治療も薬物療法、放射線治療、手術と多彩で、内科医がその選択に大きく関わります。そうしたところに興味を覚え、専門とし研鑽を積んできました。今後は弊院スタッフとともに皆さまの健康に資するべく、高いレベルの内分泌代謝疾患診療を継続的に提供し、医療現場でのホスピタリティを培って社会に貢献してまいります。
経歴
平成8年 大阪医科大学(※1)卒業
平成8年~平成11年 名古屋大学附属病院、名古屋記念病院勤務
平成11年~ 大阪医科大学附属病院(※2)第一内科学教室入局
平成12年~平成14年 神甲会隈病院勤務
平成16年~平成24年 大阪医科大学附属病院(※2)第一内科 任期付助手→助教
平成24年5月 ひらいわクリニックを大阪府茨木市大手町に新規開院
令和6年8月 茨木市西中条町に移転拡張リニューアル
現在に至る
(※1)現 大阪医科薬科大学 (※2)現 大阪医科薬科大学病院
所属学会・認定医
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